トヨタの闇 [本]

トヨタの闇という本を読んだ。
このルポライターが真実のみを語っていると前提にする。

さて、本の内容は、トヨタのリコール隠し疑惑と、労災問題である。
トヨタという企業は、多くの宣伝に力を入れている。年間2000億とも言われる。

この広告費により、トヨタの運営がおかしくても、あげつらうメディアは殆どない。
それは雑誌や本が売れないこの時代では当然であろう。経営者は結局、金の奴隷である。

トヨタ車の多くは欠陥を抱えている。
リコール隠しも行われてると推定できる。なぜなら統計的に異常なほど低い異常発生率
だからだ。おそらく、かなり低く報告されている事が疑われる。

カイゼンと呼ばれる運動やら、在庫を持たない生産工程など、かなりの苦労をして
売上を確保している。トヨタは労働コストを最小化するタイプの企業なのだ。
よって、下請け問題や、労働者の過酷な残業実体などがある。だが、それは表には
出てこない。

別段出てこなくてもいい。一企業が勝手にやっているというだけであれば。
そして、労働者がそれを是認しているのであればだ。だが、実態はおそらく半強制的に
仕事に従事させられている。そうやって、なんとかコストを抑えて車を販売しているわけだ。

このルポが正しいとしたら、このトヨタのような会社スタイルはすでにオワコンである。
そして、このようなタイプの経営が日本中の企業で行われているならば、それこそ日本の
産業がオワコンである。


もうすこしマクロにみると、人口ボーナス期は過ぎた日本において、車を買うのは、
誰だろうか? やはり労働者であろう。現役世代が通勤に使う。これがもっともな
所有動機になるだろう。その現役世代はなけなしの金を車に使う。だが、経済は不安定化し、
所得は横ばい傾向なため、車に多くは出せない。

結果として、何が起こるのか。必需品としての車は、可能な限り安く買おうとする。
そういう事だ。それがゆえに多くの消費者は軽自動車を選ぶ。利益率の高くない車である。
昨今は、いろいろな装備がついて高騰化した。とはいえ、100万円代で取引されるだろう。

そう考えてみると、トヨタが売上を確保しようとするとコストダウンを強いられるわけだ。
つまり、身体を壊したり、自殺においこまれるくらいに労働者をこき使わなければ、見合う
利益があがらないという事なのだ。

日本のコンシューマー向けの製造業はこの状況下にある。
結局、この状態維持は、いかに社員を洗脳して、仕事に釘付けにするかで決まる。

一般的に言えば、トヨタで働ければまずまずの収入を得られるだろう。
だが、世界は広い。能力に見合った金銭を得られているかは疑問である。
ましてや、若い頃はとにかく労働の持ち出し状態である。むろん、そうやる事で、
離職すると損をする仕組みになっているわけだから、企業も汚いものだ。

今になってわかることだが、良い企業へ入社するために、努力するなんて本質的に
どうでも良い事だと思われる。要するになるべく苦労がない仕事で、安定的に金が
手に入る職を多くの日本人は望んでいるだけなのだ。そしてその近道が、大卒で終身雇用
だったわけだ。まあ過去形であるが。

トヨタという村社会は、かつての日本の村そのものである。
とにかく空気を読んで行動する事を求められている。休日に催される会社のイベントなど、
強制されているわけではないが、出ないわけにはいかないという生活。トヨタ内において、
すべてが完結するような仕組みになっている。

トヨタ系列の病院で生まれ、トヨタ関連の学校で育ち、トヨタに就職して、
トヨタの家を買い、トヨタ車に乗って仕事をする。そうして気がついたら定年まで
ほどほどの給与で休日が取れない形で生きていく。なんかディストピア映画のような
人生に見える。

もちろん、本からうけるイメージと、実態は違うのかもしれない。
本は悪い面を強調しているからだ。だが、その普通という観念が、世界的な視野からみれば、
ずれ込んでいるのは間違えない。そして私には少々気味が悪いのである。


トヨタという会社には、個人的には賛同できないのだが、それを望み、それで良いという
人々がいる事も知っている。走っている車で、トヨタハイラックスくらいが主張がある
車で、あとはどっかの車のパクリに見える。

プリウスはどうにも、完成度が低い。トラブルが多いのは紛れもない事。
一時期、アメリカで暴走トラブルが相次いだ。おそらく、本当に暴走していたのだろう。
それは日本でも変わらないはずだ。発生率はとても低いトラブルなら、それでも良いし、
そんな事をあげつらうなという意見もある。だが、構造的欠陥があるならば、きちんと
対応するべきであるし、そのような事はメディアに報道されるべきだろう。

トヨタ村の隠蔽体質は、日本のそれである。

多くの社会において、ハラスメントが横行し、学校ではいじめが起こっている。
その根幹にあるのは、まさにトヨタ村が志向する付和雷同社会である。何事も、
長の言い分に従えと言わんばかりがこの国のありようだ。そして、トラブルがあると、
身内の恥は晒すなとばかりに、隠蔽に走る。要するに保身である。

結局、この国の大人は弱いのだ。理念や人道という事は、利益のずっと後ろにある。
美辞麗句を並べている起業家が多いが、あれは嘘っぱちである。日本の社会は、結局、
得するかどうかに比重を置いているのだ。

ところがこの損得だが、これについても、中途半端である。
日本という国の国益を最大化したいなら、もっとテコ入れするべき産業は色々あるだろう。
たとえば、アニメや漫画は世界中で消費される優良なソフトウェアだ。だが、
そこで働く彼らの給与はすずめの涙である。構造的な問題があり、創作というものに対する
対価があまりにも低いのがこの国なのだ。

これは学術でも同じである。学術をする最大の社会貢献は、先を見通す力をもつ人間の増加
である。思考の射程範囲を拡大する事で、目先に惑わされずに、社会を考慮できる人間を
作り出すことである。

ところが、日本はしょうもない国で、社会人の連中は、兵隊が大好きである。
体育会系というホモマゾグループ出身の男を重宝する。それはショッカーみたいなものだ。
大学をサボってバイトばかりしていたような人間こそが、日本社会に適応的であり、
学問に打ち込んだ人間は、日本社会からは敬遠される。ましてや真の知性があり、
現状を正しく認識した発言ほど、疎まれるものはない。

組織なんてアホらしいもので、自分より優秀なやつは嫌いなのだ。
だから、自分より下にみることが出来る人間を配置する。使えるやつとは、いう事を聞くやつ、
自分の意図をくんで、成果を出す人間である。アンビバレントな事に、優秀なやつは、バカな
上司に使われるのを嫌うものである。よって、組織は、続けるほどに人的リソースが崩壊する。
よほど、うまい制度構造が無い限りは必ずそうなる。

権力というのは、自分より能力的に優れている人間を、金や地位というものを利用して、
こき使うという事で成り立っている。そして、劣等感があるほどに、地位や金を欲する。
なぜなら、嫌われているからである。人望がない人間は餌をまいて始めて人が近づいてくる。

こういう組織の最大級の存在がトヨタである。

末端の労働者の労働力を最大化するために、様々な仕組みを工夫した。
それがトヨタ村を構築することであり、それが普通となるような洗脳である。
そして、その弊害として、労働災害にあうひとが出てくるのだ。

あれだけ儲けているトヨタがそうであるならば、業績があがらない会社組織では
何が起こっているのか、想像に難くない。そりゃ、心を病むだろうに。
一体自分は何をしているのだろう? そう思うだろうに。

普通に暮らしたい。かなりの多くの人がそれを願っている。
ところが、ごく一部の強欲な人間たちの思惑に、振り回されている。
生活出来ているのだから、文句をいうなという人もいるだろう。
だが、死んでしまえば楽になる、というような事を思うような状況があること自体が
異常である。ただ生きている事と、人生を歩むことは完全に別である。

トヨタの闇は、日本社会そのものを考え直さないといけないと思わせるのに十分な本であった。

ともあれ、健康を害してまでするような仕事はこの世には存在しない。
あるとしたら、それは仕事ではない。やっていい仕事ではないのだ。
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