映画「リトル・フォレスト」 [その他]

とても良い映画だった。主演の橋本愛がかわいいというのはずるい気がするが、
何だか安心できる話。それは現代に決定的に欠けている事柄が写っているからだ。
それは「生活すること」である。

誰しもが生活している。でも、現代人とくに若者たちはちっとも「生活」をしていない。
生きるための活動と書く。だからその行動が生きることにつながっていなくてはならない。
サラリーマン生活が、生活だろうか。満員電車に乗って会社に行く。会社ではミーティングを
除けば書類作りだ。実際に手を動かしている人たちもいるが、大抵は生産物を作り出す以上に、
ビジネスをする。つまり情報を動かすのである。誰かに会う。商談をする。これこれの物品を
いくらで仕入れ、それをいくらで市場に出すか。この割合を話し合いで決めるのがビジネスだ。

供給側に立つ事。これがビジネスの基本である。そして内容物は自分たちで作らない。
実際に動くのは、社会的にはあまり認められていないワーカーたちだ。ものを運んだり、
穴を掘ったり、重機で道路を作ったり。農作物を作ったり。

だからサラリーマンは情報をただやり取りする。その行為を高尚だと思っている。
高尚だからその分前は多量であるべきだと思っている。つまり頭脳労働は、肉体労働より
優れていると思い込んでいる。こういう独りよがりな思想は基本的に間違えだ。価値観は
二項対立ではない。どちらにも優れた面があり、どちらにも劣った面がある。これが事実だ。

映画「リトル・フォレスト」では、農村の暮らしが描かれる。内容は、ひたすらに作業だ。
料理が主なテーマだが、その料理が出来るまでのプロセスが種まきから描かれる。農村での
リアルだ。コメを作って、そのコメを食べる。畑をつくって大豆やキャベツをとる。その行為
そのものが生きるためになっている。自分に必要なものを大地から生み出してゆく。
そのダイナミズムに圧倒される。圧倒されてしまう自分は、まさに都会人なのだと自覚させられる。

自分が食べている食材。これらは誰かが作ってくれたものだ。自分の代わりに作ってくれた。
だからその対価を払う。その対価を払うために労働をする。労働して金を稼ぐ。では、その金は誰が
作ってくれたものなのだろう?

金は誰かの労働の前借りである。実は作られたものじゃない。これから行われる労働を目に見える
形にしたものである。この世は不思議で、誰かが作ったものを将来の労働で交換するのである。

金持ちとは、誰かという不特定な相手を労働させる権利を持つ存在ということだ。そしてかなり
不自然なことに、労働させる権利は利子をとる。なぜか持っているだけで、誰かを使役する権利を
拡大出来るのが金というミステリーなのだ。そして自然に反する存在なのだ。

自然に反する存在ということは、この世のものではない。あの世のものだ。あの世のものであるから
それは幻である。人の頭の中にしかない。多くの人がそれを価値があると思い込んでいる実態を
我々は金と呼んでいる。

自分が労働する事で、誰かを労働させる権利を手元に引き寄せられる。だからご飯を作ってもらえる。
家電をつくってもらえる。家を作ってもらえる。つまりレストランやメーカーや建築である。
金で全てを生きている都会人は、ちっとも生産していない事に気がつく。生産はもっぱら農家や
工場で行われているのだから。

生活とは生きるための活動であった。都会人は果たして生活しているだろうか?
生きるために作物を作る。料理を作る。これがまっとうな事であると気がつく。そしてそれ
以上のことは余分なことになってゆく。その余分の中に生きる事は、生活の本質から乖離する。

労働が満足を与えてくれない、そう感じている人は少なくない。自然を相手に労働する人は、
自然の恵みを実感する。労働そのものは何も生産しない。ただ手伝いをするだけだ。生命は
生命自体で形を作る。我々はその恩恵を受けるのみなのだ。感謝する他無い。
だから、祭りなのだ。神が世界に宿るのは、ただ恩恵をひたすらに受けるという途方もない
横取りに対して、我々、些細な存在が出来るわずかながらの行為なのだ。映画でも、意識的か
無意識的か祭りのシーンが描かれる。それは自然との共生を願う心がそうさせるのである。

生きるとは何が出来ることなのか。改めて考えさせられる。食とは自然の恵みであることを忘れ、
金を儲ける事が目的化された社会において、都会人が欲求不満で生きるのはごく当然ではないか。
その解消のために、また金を稼ごうとする。悪夢とはこの事なのではないか。

映画「リトル・フォレスト」映像美だけでなく、暗に染み込んでくる問いかけに我々は
生活を考え直す事が求められる。そんな映画だった。
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